2019年11月に公開された第一章となる1stシングル「夜に駆ける」がTikTokでバズり、ストリーミングでは累計3億回再生を突破。公開から約5ヶ月で再生回数1000万回を突破したミュージックビデオは、2020年の10月に1億回再生を突破した。

YOASOBIオフィシャルサイト


さらに Billboard JAPAN が発表した総合ソングチャート”HOT100″にて2020年年間1位を3週連続で獲得。

12月31日に開催された第71回NHK紅白歌合戦に出場。天井まで高く小説が積み上げられた部屋で、テレビ初となるパフォーマンスを披露した。

2020年を駆け抜けたその勢いのまま2021年に到来し、1月6日に1st EP『THE BOOK』をリリース。

今最も勢いのある音楽ユニット・YOASOBI。現在20歳のボーカル・ikuraの力強さと儚さを兼ね備えた歌声はもちろんだが、YOASOBIがデビューから1年余りでここまでの人気を博した理由はそれだけではない。

インターネットと共存する私達のYOASOBI

東京中日スポーツ


2007年8月31日に音声合成ソフト「初音ミク」がクリプトン・フューチャーから発売され、2007年11月19日には重く分厚い書籍を携帯ひとつで読める「kindle」がAmazon.comによってローンチされた。

コンピュータと共に勃興してきたネットカルチャーに多く触れてきたジェネレーションZである私達の耳へ、体へ、YOASOBIの楽曲は良く浸透する。なぜか。

その理由のひとつは、作詞・作曲を担うコンポーザーをボカロP(ボーカロイドプロデューサー)であるAyaseが務めていることにある。ボーカルは、そのAyaseに見出され、幾田りら名義でシンガーソングライターとしても活動するikura。ボカロ全盛期を過渡した私達にとって、YOASOBIの音は耳馴染みが良かった。

YOASOBIが日の光に当たるきっかけとなったTikTokでのバズには、中高生のファンが多いボカロP・Ayaseがコンポーザー(作詞・作曲)であるということが起因している。TikTokは、950万人の国内月間アクティブユーザーを持つ。その過半数が10代と20代なのだ。

そして2020年1月、音楽ストリーミングSpotifyで日本バイラルチャート1位を獲得したことがトリガーとなり、CDTVやめざましテレビといったテレビ番組で特集が組まれ、ネットの、それもボーカロイドという比較的閉鎖的地区出身のYOASOBIは日常に進出した。

monogatary.com


YOASOBIが所属しているソニー・ミュージックは、小説投稿サイト「monogatary.com」を運用している。

そこで開催される「モノコン」というコンテストでソニー・ミュージック賞大賞を冠した小説を「原作」として楽曲化するためにYOASOBIは結成されたのだ。

「夜に駆ける」を駆け足で解説


バズヒットを飛ばし、マスターピースとなった「夜に駆ける」は、星野舞夜が2019年7月にネット投稿した小説『タナトスの誘惑』を原作としている。

YOASOBIが「夜に駆ける」の原作とした小説『タナトスの誘惑』は、近年増加傾向にあり社会問題となっている「自殺」を肯定的に扱っている。「肯定的」と言っても、決して自殺を促すものではなく、あくまでも飛び降り自殺を図る彼女を止めようと試みる主人公の心情を描いたもの。

タイトルの「タナトス」はギリシャ語で「死神」若しくは「死」そのものを、精神科医ジークムント・フロイトの精神分析学用語では「死への誘惑」を表す。

monogatary.com
星野舞夜『タナトスの誘惑


本作の主人公はブラック企業に勤めており、暗雲が漂う「夜」という人生を歩む中で「天使」のような彼女に出会う。

しかし彼女には自殺願望がある。

その彼女、主人公にとっての「天使」こそが実は「タナトス」つまり「死」そのものであり、生きながら死んでいる主人公にとって死は「希望」であること、そして「救い」になり得るという意味で、自殺を肯定的に扱っていると言える。

文字を音に昇華し、明暗をマッシュアップする

YOASOBIが手掛けた小説の楽曲化は「夜に駆ける」だけではない。


2019年12月28日にリリースされた2ndシングルであり第二章「あの夢をなぞって」は作家いしき蒼太の『夢の雫と星の花』を、第三章「ハルジオン」は橋爪駿輝の小説『それでも、ハッピーエンド』を原作としている。

YOASOBIは、現在(2021年1月7日)までに7作のシングルをリリースしているが、その全てが小説を原作としているのだ。

小説をタイアップするYOASOBIの楽曲はまるでプロのナレーターが朗読した本をアプリで聴けるサービス・オーディオブック、「聴く小説」のようだ。

爽快なポップスに昇華された「物語」は老若男女誰にとっても「読み」易い。その上、原作『タナトスの誘惑』が「自殺」という陰鬱な主題を描いているのに対し「夜に駆ける」は快活で好感が持てる。

ポルノグラフィティが2001年にリリースした「アゲハ蝶」がシングルで現時点最大の初動売上を記録しミリオンセラーとなったが、これもフォルクローレ調のラテン系アップ・チューンであるにも関わらず、歌詞は、決して手の届かない高嶺の花のような女性を愛してしまった男の感情を歌った儚いものである。

人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の第弐拾弐話(第22話)で、惣流・アスカ・ラングレーが使徒による精神攻撃を受けるシーンでは、ヘンデル作曲「メサイア」第二部最終曲の通称「ハレルヤ・コーラス」が挿入されていた。シリアスなシーンに不釣り合いな楽天的な音楽を挿入することで、視聴者の感情移入を拒否する。

ポルノグラフィティにも見られるような明暗のギャップと、エヴァンゲリオンのように感情移入の拒絶をオーバーラップしたような「夜に駆ける」は、自殺を主題として取り扱っていようとも、不快感を覚えることなくエンターテイメントとして経験することができる。これも「夜に駆ける」がヒットを飛ばした理由の一つだろう。

拡大解釈ではあるが「YOASOBI」というユニット名にすらも明暗を感じてしまう。

2021年も続いていくYOASOBIの物語


YOASOBIが人気を博す理由はいくつもある。

ドラマチックな音を執筆し続けるキャラクタリスティックなYOASOBI。2021年も鮮やかな物語を展開してくれるはずだ。

こんなにも解り易く、読み易く、軽量な小説は二つとない。

+3