今日が終わる時、同時に明日が始まる。

そんな時、眠りたいけど眠くないとか、誰かと話したいけどめんどくさいとか。相反する2つの感情というか認知というか、それをモヤモヤと考える。明日も今日と変わらない一日であってほしいとか、このままじゃダメだ、とか。

布団に身を任せたまま、このジレンマやフラストレーションを拭う方法がある。

音楽を聴くことだ。

ライブラリを淡く彩るジャケットが目に入り、選ぶ。

多彩なフラストレーションとカタルシスから成る『HOME』

Rhye Music .com


カナダ出身・ロサンゼルスを拠点とするマイク・ミロシュ (Michael Milosh) による音楽プロジェクトRhye (ライ) が、2021年1月22日、ニューアルバム『HOME』をリリースした。

このアルバムには、今日の終わりと明日の始まりを同時に迎えなくてはいけない私の中に渦巻く全てが収められている気がする。

アルバム総体のテーマは、読んで字の如く『HOME』だ。

Hero and I… bringing the energy down for a little tea ceremony this morning 📷 @gene.vi.eve
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マイクは、2013年にRhyeのファーストアルバム『Women』をリリースして以来、年間100本にも及ぶライブを行い、世界中を旅していた。スーツケースを2つくらい抱えて、気が向くままにいろんな場所で音楽を作りたいとも思っていたそうだ。

しかし、アルバムジャケットやMVに登場する最愛のパートナー、ジェヌヴィエーヴ (Genevieve) が彼を変えていく。

マイクは家庭を、心の拠り所を築きたいと考えるようになった。

back numberが言う「アイドルと付き合えなくたって、外車に乗れなくたって、君がここにいるなら幸福な人生だろう」みたいなことなのかなあ。

そしてマイクはロサンゼルスの郊外のマリブの丘に、ジェヌヴィエーヴと暮らすための家を建てた。まるで雲の上に浮遊しているような2人の家に、スタジオも構えた。

gene.vi.eve two dream biggers in repose 🖤 by @emmamariej_ for @lala_magazine
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そんな「聖域」で創造された『HOME』は千紫万紅、多彩なサウンドで構成されている。

何かを特別に意識するのではなく、マイク自身が自然と求めていたものや湧き上がってきたものを表現したそうだ。

1980年代のマイケル・ジャクソン (Michael Jackson) を連想させるようなダンスチューン「Black Rain」は現在の鬱憤を晴らしてくれるし、60人編成の合唱団と作り上げた神秘的な楽曲「Holy」は洗礼や瞑想を感じさせる。

Rhye『HOME』収録曲たちの共通点あるいは『HOME』と「私」の共通点

6. Need A Lover


例えば「Need A Lover」を聴くと、ストリップされる瞬間の、和やかでありながらどこか強張っているような感覚や、肌を這うぬるい温度に似たものを感じる。

リズムとドラムから解放されたこの曲のベースには、パワフルさを抑えたチェロの音色とそれにマッチする低音域でシンプルな構成が採られている。

マイクはこの「Need A Lover」を3時間で完成させたという。

時間をかけたことの全てが必ずしも良い結果に結びつくというわけではないし、そもそも人の時間には限りがある。シンプルでありながらも、伝えるべきことを欠かしてはいけない、という意志がじんわりと伝わってくる。

8. Black Rain


ダンスチューン「Black Rain」は、カリフォルニアなど西海岸一帯で起こった山火事をテーマにしている。カリフォルニアにおいては、2020年1月以降、8200件余りの火災が発生し少なくとも31人が亡くなっている。

自宅や家族を天災で失ってしまう恐怖と共に、それら天災による被害を少しずつ乗り越えようというメッセージを込めたそうだ。

マイクは、この曲をライブでの定番曲にしようと考えていると言う。理由はもちろん、気持ち良く踊れるサウンドだからだ。ディスコに傾倒しながら、ストリングスや歪んだギターの音色を利用することでクラシックロックな要素も残している。

恐怖や不安で心が燃え尽きてしまっても、人は踊りたいと願うことが出来る。灰となった恐怖や不安の上で人は踊り、新しい命を生み出す。

Last Dance (Women)


私のおすすめの聴き方は「Black Rain」の後に、2013年リリース『Women』収録曲「Last Dance」を併せて聴くこと。

「Last Dance」は、ボブ・マーリー (Bob Marley) などにも強い影響を与えたマルチ・プレイヤー、カーティス・メイフィールド (Curtis Mayfield) の「Tripping Out」(1980) をサンプリングした、Rhyeらしいメロウなダンスチューンになっている。

まさに1日の終わりを締めくくり、新しい1日を迎え入れる「Last Dance」になる。

11. Fire


「Fire」を聴くと、月光に照らされた森の中、湖のほとりでパチパチと音を立てながら燃ゆる焚火が目前に現れる。サウンドスケープへと吸い込まれていく。

マイクは”Give me your tongue baby, show me words (舌を出して、言葉を見せてくれ) / Sing me a song babe, kill me right (歌を歌って、すぐに僕を殺して) “とハスったトーンで歌う。

捻じれたストリングスが強調されているにもかかわらず、歌詞にも演奏にもどこか儚さを感じる。

自分の弱さを醜く感じた日。弱さと強さは紙一重だということを思い出す。

12. Holy


“Don’t be holy for me (自分の為に神聖すぎることはしないで) / Don’t be so good (良い子でいなくてもいいよ) ”と優しく声をかけてくれる「Holy」。

いつも美しく在る必要はないし、少しくらい汚れていても大丈夫だよ、と官能的な音の上でマイクが甘く囁く。

そんなスロウな時間は束の間。

後半に差し掛かると聖歌隊、ピアノやトロンボーンを登場させて、宗教的なサウンドに仕上げている。先ほどの甘い囁きをスイープし、美しく居なくてはならない、強く居なくてはならない、と戒められているような気にもなる。

今の自分を肯定したい (されたい) 。でも今のままで良いわけがない、現状を打破したい。聞けば前者を叶え、後者と対峙することとなる。

構成からしても、そんな逆説的な一曲だ。

感情に塗れた人間と生命の姿

Staying warm into the new year 📷 @lanitrock
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人はみな矛盾を抱えて生きている。

今日の終わり且つ明日の始まりという「矛盾の時間」において、矛盾の輪郭はますますはっきりとしたものになっていく。

一方が強調されることによりもう一方も同時に強調されるのが「矛盾」だ。Rhyeの『HOME』を構成する作品の全てにそういう矛盾と葛藤を見出すことが出来る。

一人になりたいけど寂しい。

安らぎが欲しいけど、暇は耐え難い。

頑張りたいけど、何を頑張ればいいのかわからない。

好きだけど嫌い。

Serenity in New Zealand. Shooting for Spirit w. @gene.vi.eve
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自分の思いと同時に立ち込めるもう一つの自分の思い。前者がフラストレーションであれば、後者はカタルシス。その逆も然り。

相反するものが同時に並ぶことで、生命にクレッシェンドとデクレッシェンドが波打つようにかかっていく感じ。明日は頑張ろうと思う気持ちと、気怠さ。

『HOME』を聴いていると、耳から「私」が飛び込んでくる。「私」を代弁してくれるその音に身を委ねて、眠りに落ちていく。そして自分を見つめ直せる。

そんな気がするし、そうでもない気もする。

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