キャンバスにエアブラシで、ラテンアメリカ文化の象徴を散りばめるアーティスト、マリオ・アヤラ (MARIO AYALA) が初めて触れたアートの世界は、父がくれた。

放浪するトラック運転手の父の帰宅を、マリオはいつも待っていた。

そして父は帰って来ると、荷積みの書類の裏にボールペンで緻密に描いた犬やトラック、車、人などの絵をマリオにくれた。

「何でも描けるんだな」と、父に、そしてアートの世界に彼はいつも感心していた。

父と子、マリオ・アヤラ (MARIO AYALA)

MARIO AYALA
Ever Gold [Projects]


マリオが絵描きになったのも、この父からの影響だ。

そしてマリオの作品には、犬やトラック、車、人などの題材が一貫して登場する。これらへの愛も父から受け継いだものに違いない。

それを作品に反映させることは、“父”をも描いていると考える事すら出来よう。

Mario Ayala
“Angel’s Fruits,” 2020
Acrylic on Canvas


マリオの父は、子供の頃からローライダーやオートバイを所有していた。それらは父の生活の一部だったし、彼は人生の大半をトラックの運転手として過ごしていたから、マリオもいつも機械のそばにいた。

父はいつもトラックや車やバイクといったマシンに感謝し、誇りを持っている場面や場所へマリオを連れて行ってくれた。

父はもちろんメカニックではないが、マリオはこれらのマシンがいつも、所有者である父の延長線上にあるように思っていた。

Mario Ayala
“Spare,” 2018
Acrylic on Canvas


今でも、マリオと父は一緒に車をカスタマイズしている。

2019年に開催されたEver Gold [Projects] での個展「Give a Dog a Bad Name and Hang Him」に出品した作品には父が参加していた。

本展では、キャンバスにエアブラシで描かれた絵画と紙の作品を展示することで、物語的にも空間的にも、異なる要素が協調したり矛盾したりする一種の具象的な表現を用いた。

マリオはこの比喩的表現が作品のコンセプトや“フィジカルな”制作方法となって表層化し、そのような視覚的表現が言説的現実を投影すると考えている。

自分を構築する環境に感謝し、環境を構成する自分を誇ること

Mario Ayala
“Catch and Release,” 2020
Acrylic on Canvas


マリオ・アヤラは父に倣い、自身を構成する要素や世界に感謝し、誇りを持っている。

ラテン系アメリカンであるマリオは、自身の“ブラウン”を誇りに思い、制作の中で常に参照しているという。

また、ラテン系アメリカンが試み、成功させてきた音楽、ビジュアルアート、タトゥー、カー・カルチャーなどといった“経験”は自律的に、あるいは流用を通して、アメリカを媒介して世界の大衆文化に浸透している。

Mario Ayala
“Content Administrator,” 2019
Acrylic on Canvas


マリオは、“ブラウン”やラテン系アメリカンの経験やアイデンティティに密接するヴァナキュラーなイメージを作品内に散りばめている。

そういった自身を取り巻く環境のイメージやシンボルについて、彼は「自分にとってすごく大事だから」と話す。

それら要素が明らかに不在である空間にそれを存在させることで、表象を強調することができると考えているそうだ。

それは「場違い」とは違う、肯定や願望の主張、そして提起の強調だろう。

分け隔てない包括的な世界を展望すること

Mario Ayala
“Accordion,” 2017
Acrylic on Canvas


そしてここ数年、 異なる個性を持つ様々なアーティストたちがラテン系アメリカンの経験をテーマとして扱っている。展覧会、パフォーマンス、出版、ソーシャル・プラクティス/コラボレーションなど、その展開のスタイルも様々でどれも個性的だ。

あらゆる形のアートの実践に関して、それは、特定されたとあるの対話の場に座り、疑問を投げかけることを意味している。

このように、アートにおけるラテン系アイデンティティを扱う会話が増えていることをマリオは嬉しく思っている。

Mario Ayala
“Earth Angel,” 2020
Acrylic on Canvas


“共通の言語”を通して、“異なる言語”を持つ人々が繋がっていくこと。聞いてもらいたい、理解してもらいたいというネットワーク化された“声”のためのプラットフォームが成長していること。

マリオにとってはそれを目の当たりにすることは幸せだという。

人と人が手を取り合い、包括し合うこと。自身がその当事者となることが、彼自身も好きらしい。

彼は、ありとあらゆる声が包括的に思慮される世界を望む。

自分が与えられたものを、自分以外に与えること

MARIO AYALA
© 2021 ssense.com


そのために彼は表現する。

所属するコミュニティや自分を構成する世界、そして天性に感謝しを誇りに思うこと。

ボールペンで緻密に描いた犬やトラック、車、人などの絵をくれた父のように、あらゆる人に、マリオ・アヤラ (MARIO AYALA) は希望と喜びを与え続ける。

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