※本稿は音楽を取り扱っており、掲載されているアルバム画像をクリックすることでYoutubeに遷移し、該当作品をお楽しみ頂けます。

Kanye WestやFrank Ocean、Rihanna、様々な音楽家に愛用されているラフ・シモンズ (RAF SIMONS) のウェア。

A$AP Rockyが、Playboi Carti、Quavo、Lil Uzi Vert、Frank Oceanという錚々たる顔ぶれを揃えた一曲「RAF」では、2013年に初代モデルが発売されたAdidas By Raf SimonsのスニーカーOZWEEGO (オズウィーゴ) や、2014にラフ・シモンズとコラボレーションを果たしたアーティストSterling Ruby、ショー会場が炎で真っ赤に染まった02SSコレクションなどが謳われる。


A$AP Rockyなら「Fashion Killa」や「Lord Pretty Flacko Jodye 2 (LPFJ2)」。

Juice WrldとYoung Thugなら「Bad Boy」でラフ・シモンズの名前を曲中に挙げていた。

国内ならAK-69の「Buzzin’」、YZERRとTiji jojoの「Foreign」にもその名は登場するし…

と、挙げ出したらキリがないのでプレイリストにでもまとめておこうと思うが、それはさておき。

Long before his collaboration with Adidas, the famously minimalist designer made Stan Smith sneakers part of his own uniform. COPYRIGHT ©2008 FAIRCHILD FASHION GROUP. ALL RIGHTS RESERVED.


ラフ・シモンズを着ることは音楽家にとって一種のステータスとなり、またラフ・シモンズは音楽に影響を与えている。

のべつ幕なしに音楽を魅了し、自身の世界に引き込んでいくラフ・シモンズだが、彼にも沢山の音楽が注ぎ込まれている。

本稿で紹介していくのは、音楽に影響を受け、音楽に影響を与え続ける循環型リファレンス的存在。

ラフ・シモンズ (RAF SIMONS) のお話。

New Order, Sonic Youth & Front 242

ラフ・シモンズが初めて手がけたCalvin Kleinのキャンペーンビジュアル用コールドウェーブ・サウンドトラック制作のために起用されたCURSESによるDJ MIX。本作はKNOTORYUSに宛てて作成され、Front 242のサウンドを際立たせている。


ギャラリーも映画館もブティックもなく、思春期の男の子の心を惹きつけるものが音楽以外にほとんどないベルギーのニールペルトでラフ・シモンズは育った。

母親のお気に入りのテレビ番組であるドイツのヒットパレード「シュラガー・フェスティバル」に夢中になり、Debbie Harry、Blondie、David Bowieなどのスターが出演する「トップ・ポップ」を見ていたシモンズの生活は、学校以外の全てが音楽を中心として成り立っていた。

レコードとLPの時代、シモンズは地元のレコード店でイギリスのロックバンドNew Orderのアルバムと出会い、Sonic Youthのようなアメリカ産のノイズパンクに淫していった。

PUKKELPOP 1985 © 2021 Pukkelpop The Factory CVBA – VSO


ナイトクラブに足を運ぶようになっていた1985年、17歳だったシモンズはベルギーの野外フェスティバル「Pukkelpop (プッケル・ポップ)」でヘッドライナーとして出演していたエレクトロニックボディミュージックの先駆者、Front 242を見る。

ベルギーには常にオルタナティブなシーンがあり、エレクトロニックであれニューウェーブであれ、究極の音楽体験や実験を披露するアーティストと観客がいた。

かつてその観客のひとりであったシモンズは、後にあの時のヘッドライナーを繰り返しランウェイショーに起用するようになる。

Sex Pistols (RAF SIMONS 98SS – Black Palms)

Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols (1977)


ベルギー東部の町ゲンクの大学で家具や工業デザインを学んだシモンズは、その後アントワープに移り、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク (Walter Van Beirendonck) のインターンシップに参加した。

これは有名な話だが、1989年、ヴァン・ベイレンドンクのアシスタントとしてパリを訪れていたシモンズは、マルタン・マルジェラ (Martin Margiela) の90SSのショーに出席した。シモンズも、シモンズの周囲の人々も、消費者としての誰もがマルジェラに魅了されていた。

そしてファッション史上最も伝説的なショーのひとつと言われているそれは、パリ郊外の寂びれた競技場のテントで行われた。

“表層的”なものだと思っていたファッションが、業界の外にいる人々の“深層”にまで語りかけることができるということをシモンズは知った。

社会性があり、心理的で、超現実的なショーだった。そしてシモンズは、生産者としていつか“これ”をやると決めた。

Raf Simons Spring/Summer 1998 Another Magazine


ラフ・シモンズ (RAF SIMONS) は1995年に自身の名を冠したレーベルを立ち上げ、98SS「Black Palms」コレクションは、バスティーユ周辺の“寂びれた”駐車場で行われた。

テクノとアシッドハウスを融合したLords of Acidのベルギー産ニュービートのBGMと、Sex Pistolsの「Never Mind the Bollocks」のアートワークがプリントされたTシャツは、“業界の外にいる人々の深層にまで”パンクの精神を語りかけた。

これはマルジェラのゲリラ的な精神を、パンクに変換もしくはパンクと共に昇華したものである。

Kraftwerk (RAF SIMONS 98AW – Radioactivity)

Kraftwerk – Radio-Activity (1975)


グランジな「Black Palms」に続く98AWは、ドイツのカルト的なテクノポップグループであるKraftwerk (クラフトワーク) にオマージュを捧げた。

ショーのタイトルは「Radioactivity」。これはKraftwerkが1975年にリリースしたアルバム「Radioactivity」(公式タイトルは「Radio-Activity」とハイフンで繋がれています。これは、アルバムのテーマである「放射能」と「ラジオ放送」を掛け合わせた洒落で、アルバム収録曲の1/2/6/10トラックは放射能を、3/4/5/7/8/9/11/12トラックではラジオを主題に扱っています) を引用している。

「Radioactivity」では、BGMであるKraftwerkの「Autobahn」がムーラン・ルージュに開かれたこのスペクタクルを揺らしていた。

そして1913年にロシアのカジミール・マレーヴィチ (Казимир Малевич) が提唱した「シュプレマティスム」が音と共に轟き、認識論や存在論を意識付ける。

Kraftwerk’s “The Man Machine” album cover (left) and a look from Raf Simons’s fall/winter 1998 collection (right). Credit…Left: EyeBrowz/Alamy Stock Photo. Right: Firstview. © 2021 The New York Times Company


ハイコンテクストなショーの最後のルックでは、赤い口紅、揃いのシャツ、黒いネクタイ、フォーマルなズボンを纏ったモデルが登場。

これは、ドイツ人アーティストKarl Klefisch (カール・クラフィッシュ) がアートワークを手がけたKraftwerkの1978年発表のアルバム「The Man-Machine」のジャケットにおける4人のルックを忠実に再現していた。

このショーについてシモンズは「音楽だけがある」とだけ語った。

David Bowie

David Bowie – Aladdin Sane (1973)


ラフ・シモンズ (RAF SIMONS) が生涯を一貫してインスパイアされているミュージシャンを一人だけ挙げるとするならば、それはDavid Bowie (デヴィッド・ボウイ) だろう。

シモンズが1995年のレーベル立ち上げ時にデザインしたスクリーンプリントのTシャツ「Aladdin Sane」、「Life on Mars」がサウンドトラックとなった99SSコレクション、ボウイのパッチをあしらった01AWのニットウェア。

さらには1985年に発表されたボウイの名曲「This Is Not America」で幕を開け、幕を閉じたラフ・シモンズによるCalvin Kleinのオープニングショー、17AW「PARADE」。


シモンズは自身のキャリアの中で、ボウイを数多くトリビュートしてきた。

それは、ただ単にボウイの顔をTシャツへプリントするだけではなく、彼の“革新”の精神を絶え間ない共有し続けている証拠となっている。

つまり創造における祖先として、また“トップ・ポップ”として、ラフ・シモンズはボウイを遇してきた。

Calvin Klein 17AW by Raf Simons Image by: Calvin Klein ©FASHIONSNAP


Calvin Klein 17AWについてラフ・シモンズ は

「異なるスタイル、異なるドレスコードに身を包んだモデルがランウェイに登場した。一つの時代や一つの事象、一つのルックに焦点を当てたコレクションではなく、様々なキャラクターや複数の個人を融合させた。これはまさにアメリカそのものの姿で、アメリカ特有の”美”でもある」

とコメントした。

アメリカをオマージュしたこのコレクション発表の前年、2016年終盤にはアメリカ大統領選挙が行われていた。

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