初夏に飲みたいリースリング = ドイツ・モーゼル =
清々しい青空と新緑の季節はあっという間で、曇天空と雨の季節に入ってしまいましたね。
けれど、部屋に篭って雨音をBGMにゆったりとワインを愉しむのも良いものです。
今回は、前回から始まった「ウチタビ」の Vol.2
「初夏に飲みたいリースリング」を片手に、その銘醸地であるライン川流域の ドイツ2大産地 のひとつ「モーゼル地方」へご案内します。
前回の【ウチタビ】ドイツ・ラインガウ
→ ワイン片手にうちで旅しよう Vol.1
モーゼル地方 Mosel

モーゼル地方はドイツの西端、ルクセンブルグやフランスと国境を接している地方。
ドイツ最古のワイン生産地で、ラインガウ地方と並ぶリースリング・ワイン銘醸地です。
この地方名の由来ともいえるモーゼル川はライン川の支流。フランスのヴォージュ山脈に源を発し、ルクセンブルグ〜ドイツへと流れ込みます。ライン川に合流するコブレンツまでの川沿いの丘には古くからブドウ畑が広がり「モーゼルワイン街道」が形成され、現在ではフランス、ルクセンブルクも含めた一大ワイン街道となっています。
それでは、ドイツのモーゼルワイン街道を巡る旅に出発〜 ♪( ´θ`)ノ

今回の旅のルート

ライン川とモーゼル川の合流点「コブレンツ」

ライン川の旅の終点であると同時に、モーゼル川の旅の起点でもあるコブレンツは、「モーゼルワイン街道」の北端の街です。街の名の語源は、古代ローマ人が「コンフルエンテス(合流地点)」と呼んだことに由来し、2000年の歴史をもつドイツで最も古い都市のひとつです。そして、古くからヨーロッパの水上交通の要衝として発展し、現在はライン川観光の拠点とななっています。

コブレンツを訪れた旅行者が必ず目指すのが町の北にある三角州。
モーゼル川がライン川に合流する地点で、ドイツ騎士団がこの場所に拠点を置いたことから「ドイチェス・エック(ドイツの角)」と呼ばれ、ユネスコ世界遺産に登録されています。

ドイチェス・エック近くにある乗り場からロープウェイに乗れば、ライン川を挟んだ対岸の丘の上にある「エーレンブライトシュタイン城塞」に行くことができます。 ドイチェス・エックを見渡す絶好のビューポイントで、ライン川とモーゼル川が出会う光景が臨めます。
「黒猫ワイン」の村 ツェル

さて、モーゼルワインにはなぜか伝説や逸話にちなんだワインが多くあります。
コブレンツからモーゼル川を50km程南へ遡ると小さな「ツェル」村があります。 この村で造られたワインのラベルには黒猫が描かれ、その名はそのまま「ツェラー・シュヴァルツ・カッツ(ツェル村の黒猫)」 そして、このワインには愉快な逸話があるのです。
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昔々、とある商人がワインを求めて村にやってきました。どのワインが良いのか決められずにいると、どこからか黒猫がやって来て、ワイン樽の上に飛び乗ると商人にむかって「シャーッ!」と威嚇をしました。商人は「猫がこんなに威嚇するのなら、この樽のワインは美味しい違いない」と、黒猫が乗ったワインを買っていき、そのワインは大変な人気となったそう。

私自身、まだワインのことを何も知らなかった頃、初めて自分で選んだワインがこの「ツェラー・シュヴァルツカッツ」でした! 単純にラベルが可愛くて値段が手頃だったからですが、フルーティーな中甘口の味わいがワイン初心者には飲みやすくて良かったことと、造り手ごとに少しずつ絵柄の異なるラベルをコレクションした想い出深いワインです(^_^)
ちなみに、シュヴァルツカッツのワインはリースリング100%ではなく、ミュラートゥルガウなどとブレンドした白ワインです。

ヨーロッパの美しい村30選 ベルンカステルクース

さらに南へモーゼル川を蛇行しながら遡って行くと、河畔に佇む美しい木組みの街「ベルンカステルクース」に到着です。 この街は15~16世紀の木組みの家々が現在もそのまま保存されていて「ヨーロッパの美しい村30」に選ばれています。
モーゼルワインの名産地としても知られており、旧市街の散策をしながらのワインテイスティングが楽しい街です。

そして、この街にも「治癒の力があるというワイン」にまつわる伝説があります。
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16世紀、病気に苦しむトリーア大公がこの町のワインを飲んだところ、病気が治ってしまったそうで、そのワインは「ベルンカステラー・ドクター」という名で今でも生産されています。
ベルンカステルクースのワイン
ワイン名:Bernkasterler Doctor ベルンカステラードクター
造り手: Weingut Dr.H.Thanisch ターニッシュ博士醸造所
品種:Riesling リースリング

ターニッシュ博士醸造所は、トリーア大公を病から救ったという伝説にちなんで「ドクトール」の名を畑につけることを許されました。「ドクトール」はドイツで最上級の畑のひとつで、オークションなどで高値を付けられたりと、モーゼルでの卓越した品質の生産者として古くから知られる名門です。
ワインの味わいは中甘口。
甘酸っぱい蜜のような風味が五感と味覚を揺さぶる秀逸なワインです。

さて、モーゼルワイン街道は、ルクセンブルクとの国境までわずか10kmのところまで遡って来ました。 そして、本日の終着地、ローマ時代から2000年以上もの歴史を持つドイツ最古の街「トリーア」に到着です。
ドイツ最古の街 トリーア

古代よりモーゼル川の水運を利用した交通網は始まっていて、トリーアはローマ皇帝アウグストゥスによりローマの植民都市として築かれました。 当時は「第二のローマ」ともいわれるほどの都市でありヨーロッパ進出のために重要な場所でした。


今でも残るローマ時代の遺跡の数々と大聖堂に代表される中世の建造物の融合が、現在のトリーアの景観をユニークなものにし「トリーアのローマ遺跡群、聖ペテロ大聖堂及び聖母マリア教会」としてユネスコ世界遺産に登録されています。

ローマ軍によってワイン造りがもたらされたトリーアは、ドイツワイン発祥の地とも言われ、伝統的なリースリング栽培地として高い名声を誇ります。 高品質のリースリングは、国際的に評価が高く、この地方の名声を支えて来ました。
トリーアのワイン
ワイン名:Piesporter Goldtropfchen ピースポーター ゴールドトレプフェン
造り手:Weingut Vereinigte Hospitien, Trier トリーア慈善協会醸造所
品種:Riesling リースリング

ブドウ畑はトリーアからモーゼル川を北に20km程のピースポート村にあります。
ピースポート村は、ローマ時代の葡萄圧搾機の遺跡もある集落で「ゴルトトレプヒェン(黄金の滴)」とは村の最高の畑名です。
造り手の「トリアー慈善協会 醸造所」は、トリアーにある慈善連合組合の醸造所。モーゼル地方で最初にリースリングを栽培したと言われています。設立は1794年でドイツで一番古く、長きに亘ってワインを造ってきた聖ヤコブス病院を母体に数々の畑を所有しています。ワインの収益は慈善事業のために使用され、体の不自由な人のクリニック、孤児院、養老院などの運営に役立てられています。
ワインの味わいは中甘口。
青りんご、洋ナシ、桃などの香りの中に蜜っぽさとハツラツとした酸が感じられる典型的なモーゼルタイプです。
モーゼル地方のリースリング・ワイン
モーゼル地方はドイツ最古のワイン生産地域

モーゼル地方は、古代ローマ人によってぶどうの栽培技術やワインの醸造技術がもたらされ、ローマ時代の石造りの圧搾場の遺跡がところどころに残っています。中世には修道院がワイン造りをさらに発展させ、急斜面の畑がどんどん開拓されたことで、モーゼル地方は世界的にも急斜面のぶどう畑が最も多く分布している地域になっています。特にモーゼル川沿いは厳しい斜面になっていて、畑の傾斜が60度以上となる所もあるほど! モーゼルのワイン造りは命がけなのです。

命をかけて作られるモーゼルのリースリングは「繊細さと透明感」で心をほっこりさせてくれるワインに仕上がります。 まるで、CMでお馴染みの「薬用○○○○くん」みたいな? (笑) 癒し系のリースリング君です ♡
アルコール度が低く軽やかで、花やリンゴ、洋ナシのような果実味と酸味が特徴のワイン。
ラインガウの「力強いボディガード」タイプのリースリング君とは対照的ですね!

さて、ドイツのリースリング2大名産地をめぐる旅はそろそろ終わりです。
家の内、心の内で旅する「ウチタビ」 今回も愉しんでいただけましたでしょうか?
次回の「ウチタビ」では、ライン川を遡りフランス・アルザス地方のリースリングに出逢う旅へとご案内します。

Prost und Gute Reise !
〜 乾杯、そして良い旅を!〜
リースリングについて、ドイツワインの選び方を知りたい人は「前回のコラム」を合わせてお読みくださいね (^o^)/