酔っぱらって帰ってきた彼氏が眠ってしまったある日曜日のお昼頃、隣の私は同い年の男の子の曲を聴いてた。

タイトルは、「君がシラフだったらよかったのに」。

2019年、恋人になる前


ってことは今から2年くらい前、多分“親友”だった私たちは、週末だからとか夜だからとか、曜日も時間も関係なく際限なくほとんどの日々を一緒に過ごしてた。共通の友達を沢山呼んで、家で鍋を囲んだり、映画を見に行ったり、喫茶店で長話したり。

時々パーティーに行ったり!

それでそのパーティーの時思ってた、君がシラフだったらよかったのにって。

私はお酒に弱いから、パーティーに行ってもだいたいミネラルウォーターを飲んでる。その上人酔いするから、濃い人込みだと具合が悪くなってきて、大好きな音にも嫌気が差してくる。

時々ネオンに照らされる床も見下げ果てて「ここじゃないどこかに、静かなところに逃げ出したいなあ」「ついてきてくれないかなあ」って思う時、彼は必ず忙しい。

We Heart It


そういう時はその場所と時間を我慢するしかないから、自分の圧を、強気を上げてお酒を飲んでみる。すぐに体が暖かくなってきて頭がぼうっとしてくる。

21歳のくせに25歳みたいな顔しちゃって話せるフリをする。本当は酔っ払いすぎてフラフラだけどね (笑)

「君がシラフだったらよかったのに」を聴いてるとそういう時間をぼけーっと思い出す。当時、お酒を飲んでいたからもちろん鮮明じゃなくて、ぼけーっとフラッシュバック。

ノスタルジックに光暈が生じ、ゆっくりだが確実に、胸が締め付けられる。

“身震い”という快情動と共感

Conan Gray – Wish You Were Sober (Lyrics Video)
by jingyu


音楽聴取により生じる強烈な快情動として“身震い反応”というものがある(Darwin, 1887; Huron & Margulis, 2010)。

私が体験した“胸を締め付けられた”というのは身震い反応として特徴づけられている4つの身体反応のひとつ。これの他には“背筋がぞくぞくした”“涙ぐんだ”“鳥肌がたった”という反応がある。

これら身震い反応が、脳の報酬系の賦活やドーパミン放出を伴うということは既に証明されており(Salimpoor et al., 2011)、精神的健康の促進に有用だと考えられている。

身震い反応の生起要因として音楽における音響的特徴が大きいと考えられてきたが(e.g. Sloboda, 1991)、日常的に聴取される音楽はポップスやロックといった歌詞を含むものが多く、その歌詞が強力な情動反応を誘発するケースも報告されている(Gabrielsson, 2001)。

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人は何を期待して歌詞を聴いているのか、何が情動反応を生じさせるのか。

人は歌詞に「共感」できるかどうかを重要視、つまり「共感できること」を期待しているはずだ。

歌詞への共感は多次元性を孕んでおり、自己投影(認知的共感)や没入感、衝撃などを生起させることは既に心理学の世界で証明されている(森 数馬 & 岩永 誠, 2011; The relation between chill response by music listening and empthy for lyric)。

フィルターなんてない、“幼い大人”のエネルギーとコナン・グレイの率直さ


1998年生まれのシンガーソングライター、コナン・グレイ (Conan Gray) の「Wish You Were Sober」(2020) は、収録アルバム『Kid Krow』(2020) の中で“最もストレートなポップソング”と評されている。

「“幼い大人”が体験する瞬間 (時間) はいつまでも記憶に残っているものではない」と考えているグレイは、いつも備忘的に曲 (感情) を書いている。いわばそれはメロディの上に綴られた日記。

不思議なことに、グレイの日記の1ページ「Wish You Were Sober」には、パーティーでのとある瞬間 (時間) の中で私が思っていたことが書かれていて、同時に私のことも書かれている気がする。

グレイの日記は私の日記でもあって、私が恋していた彼の日記でもある。そんな風に感じる。

Kid Krow by Conan Gray, 2020
Apple Music


そんな私を含むオーディエンスのインプレッションとは裏腹に、作詞中のグレイは「ああ、これは誰も共感してくれないだろうな 」と思っているそうだ。

「これは僕に起こったニッチな出来事だから、ああ、これは誰も共感してくれないだろう」

しかし、人間の経験は“自分”が思っている以上にみんな似ているもの。実際は多くの人が似たような問題を抱え、似たような課題に直面している。

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“幼い大人”だったコナン・グレイが日々を綴ったそれは、“幼い大人”だった私が経験した日々の日記でもある。

ミュージックビデオ (というより、エモーションビデオ?) の中のグレイは、眉間にシワを寄せたり、果てしない遠くを眺めたり。

時々舌を出してヤンチャな表情を見せたりする。

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激しく抑揚付きの声で心情を叫ぶセンチメンタルなグレイに自分を投影し、グレイか、或いは過去の自分に没入していく。思い出が、文字通り思い出され、胸を締め付けられる。

懐かしいな。

ネオンが段々と消えていき、私もいつの間にか眠ってしまった。

パーティーはとっくに終わってて、2021年

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目が覚めたら2年経ってて、ある日曜日のお昼頃過ぎ。

アルコールは、もうすぐ22歳になる彼の体から抜けていた。彼はシラフに戻ってた。

君がシラフでよかった。

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